炭火焙煎珈琲工房 南蛮屋

炭火焙煎コーヒー 南蛮屋
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南蛮屋 焙煎責任者 村松靖己 遥かなるブラジルを行く。~ブラジルレポート~

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―ブラジル移民 100周年。
日本人の最初のブラジル移民を乗せた笠戸丸が神戸港を出港したのが
ちょうど今から100年前、1908年のこと。
日本人移住者の多くは、サントス港を外港とするブラジル最大の都市であるサンパウロ市周辺のコーヒー農園で働き、ブラジルにおけるコーヒー産業の発展に重大な役割をもたらしました。
そんな記念すべき2008年―夏、
コーヒーを日々焙煎し愛しいコーヒー豆達に新たなる息吹を与えるコーヒーマンとして、またコーヒーを心より愛する者として、その永遠の憧れであるブラジルの大地に足を踏み入れたこの感動と興奮を余すとこなく皆様にお伝えさせて頂こうと思います。

>ブラジルレポート#001 - 2008/09/25 更新
>ブラジルレポート#002 - 2008/10/02 更新
>ブラジルレポート#003 - 2008/10/09 更新
>ブラジルレポート#004 - 2008/10/16 更新


[ ブラジルレポート#001 ]

8/13(水)

サンパウロに向け成田を出発。
JL048便  19:20成田発     - 19:05ニューヨーク着
        21:25ニューヨーク発 - 08:10サンパウロ着

途中ニューヨークでのトランジットを含む約25時間のフライト…。
厳しい、実にキビシイ…。
しかも時差12時間という完全なる昼夜逆転に完全な時差ボケも加わり恐ろしいほどの体力低下を感じるも、そのブラジルの果てしない大地とすがすがしい空気にこれから始まる旅の期待感で一杯となる。

8/14(木)

空港よりマイクロバスにてこの日の宿泊地であるサントス市街へ向かう。
近年のマイカーブームによるサンパウロ市街の慢性的な渋滞はかなりのものと聞いていたがこれが想像以上に凄かった。一度十止まると全く動かない…。
また各々の運転も非常にワイルドでドライバー同士怒鳴りあうことも。

1時間後サントス市街へ到着。
その後「カフェ パウリスタ」にて昼食を済ませる。初めてのブラジル料理は絶品。美味しい肉料理についついお替わりを頼んでしまう…。
この後大手農協及び商社へ表敬訪問する。

★ 市街よりサントス港を望む

COOXUPE
Export Director Mr.Joaquim Leite/Ms.Evelyse/Ms.Carena
サントス事務所へ表敬訪問。
ブラジルコーヒーの生産概況と世界最大規模の農協であるコーシュペ社の生い立ちについてのプレゼンを受ける。
表作と裏作のサイクルがもたらす農家の資金繰り問題等輸出業者と生産者との関係を知る上での非常に興味深い話が聞けた。
今後の問題点は?との質問に対し、コスト(肥料、人件費、レアル高等)的部分が最大の課題との返答。

MC Coffee do Brasil
戸田部長/Classificador Mr.Maneco/Mr.Marcio
三菱商事の現地法人。こちらも表敬訪問。
ブラジル国内では非常に有名なクラシフィカドールのマネコ氏とともにカッピング。
08-09クロップの香味を確認。質の良さを感じる。

今後の問題点として、ブラジル国内消費量増がもたらす影響、また地球の温暖化によるさまざまな影響を上げていた。


STOCKLER
Mr,Ole/Mr,Newlon/Mr,Osmar
世界第2位のトレーダーであるノイマングループのブラジル現地法人。ブラジル国内の輸出業者の中でも平均5位前後の取扱量(約100万袋)を誇る。
輸出業者の買い付けから船積みまでの一般的な流れを実際にオフィス内で説明を受ける。
また、08-09クロップ産地別サンプル(セラード、南ミナス、東ミナス、モジアナ)及び各種欠点サンプルをそれぞれカッピング。今季の品質とブラジル主要産地特性をあらためて確認する。個人的にはモジアナ地区サンプルを評価も全体的には弱い印象。

ストックラー社の話では、表作の今季開花後の天候も良好で品質も非常に良いとのこと。ただし全体にスクリーンは小さめ。

この夜、同社社長の Michael Timm 氏がシュラスコ料理では非常に有名な高級レストラン「TERTULIA」にてディナーパーティを開催して頂く。とてつもなく美味しい料理とお酒にストックラー社員も6名来られてのパーティーは非常に盛り上がる。

8/15(金)

早朝5時起床、ホテルにて朝食を済ませた後7時前にはホテルを出発。
その後マイクロバスにて5時間の移動。

途中、峠道のこじゃれたドライブインに立ち寄る。
エスプレッソ1杯3.70レアル。(約¥260くらい…)
奥深いボディー感もあり予想以上に美味かった。

サンパウロ市街の渋滞がひどく、予定時刻を大幅に超えてバルジーニャにあるストックラー社の精選工場に到着。
工場内食堂での昼食後昨日よりお世話になるオレ氏に工場内を案内して頂く。


STOCKLER精選工場@バルジーニャ

40万袋在庫可能なブラジル国内最大級の工場を見学。2ラインある精選工場は1時間300袋の精選キャパ。ブラジル国内に4台しかない電子選別機(TEGRA)を2台備え生産量UP、品質UPを目指す。

★ ブラジル国内に4台しかない電子選別機TEGRA

★ ブラジル国内に4台しかない電子選別機TEGRA

基本的には原料荷受>異物選別>スクリーン選別>比重選別>電子選別の流れ。
あまりの規模の大きさ、また近代的な設備に完全に圧倒される。


★ ストックラー社のオレ氏と工場長と

★ ロット管理

ここで選別される輸出用の規格にもれたコーヒーが国内消費用に使われている。
実際に見たこの国内消費用のコーヒーというのがとてもコーヒーとはいえない代物で、ブラジル国内消費増による高級アラビカの国内消費が増えているとはいえ一般的に飲まれているという現実に少なからずショックを受ける。

その後、15時に精選工場を出発。
ラゴア農園へと向かう。


FAZENDA LAGOA:ラゴア農園

16時半にサントアントニオドアンパロにあるノイマングループが経営するラゴア農園を
ストックラーのオレ氏同行の下訪問。
すでに日も傾き始めていることから、農園内視察は翌日に。

な、なんとここで突然のサプライズが…。
先方の粋な計らいで農園にて各自コーヒーの木の植樹をさせてもらう。
名前の付いた看板とともに植えたこの木にコーヒーの花が咲く頃、再びこの地を訪問する
ことを農園主のジョアキン氏、ノイマン女史と約束。

★ ネーム入りプレートと共にコーヒーの木を植樹

★ 認証コーヒー専門のノイマン女史と

この後は農園についてプレゼンを受ける。

3000haの敷地に合計1600haのコーヒーの作付が自然と共存しながら点在する。
本年間予定生産量は35,000袋。
現在カットバックや幼木により近未来には6万袋の生産を目指す。
RA認証取得がうなずける程の自然森林を混在させた農園。カツカイ、ムンドノーボ、アカ
イアなどが植えられている。Utz認証、4Cも取得済み。大自然と農園が共存した大農園
といったイメージ。
その後のプレゼンの中で、この農園の生産されるコーヒー、またその際に使用される農薬
等全てのものに対し完全なロット管理によるフル・トーレサビリティーとの説明を受ける。

その日のディナー&宿泊はラゴア農園のゲストハウスにて。
ゲストハウスといってもこれがとても素晴らしい所。手入れの行き届いた広大なプール付きの庭に天井も高くとてつもなく美しい建物と抜群に配置されたセンス溢れる家具、そしておいしい料理と、とにかく素晴らしいの一言に尽きるゲストハウスでの一泊であった。

★ 我々がお世話になったラゴア農園内ゲストハウス全景

8/16(土)

ラゴア農園ゲストハウスでの朝、小鳥のさえずりと山の空気に爽やかな目覚め。
果てしなく広がる真っ青な空が、庭の様々な原色をもつ花木とのコントラストを一層引き立たせる…。
感動の自然環境とその景観。

ゲストハウスでの朝食後農園をまわる。
といってもこれがとてつもなく広い…。
4WD2台に分かれ農園内を一周するもそのとてつもなく広大な敷地内に広がるコーヒー
達に完全に圧倒される。
但し、完全に熟しすぎて真っ黒になってしまったコーヒーの実がびっしりとなったエリア
がかなり広がっている。人手不足により収穫が追いついていないのが現状とのこと。

また、精製に関する各設備は非常に規模が大きく素晴らしいレベル。
とにかく広大な敷地をとる乾燥パティオに広がるコーヒーには圧倒、そこで乾燥される
コーヒー全てが完全にロット管理されている。また乾燥機も1.5tのマシーンが17台と
かなりの規模である。

ここで収穫、精製されたコーヒーが昨日見学したストックラーのバルジニア精選工場へと
運ばれ最終的に選別、梱包、そして出荷となるのである。

★ 農園主のジョアキン氏と…。左奥に見える建物は同農園の乾燥パティオと精製工場

★ カットバックされたコーヒーの木々

★ 何日か前に降った雨で一部開花していた

★ 同農園の苗床場。品種ごとのロット管理

★ コーヒーの発芽

★ 広大な乾燥パティオ。とにかく広い

★ 精製工場よりパティオを眺める

★ コーヒーの実。これはカツカイアマレロ種

★ ブラジル特有の土壌、テーラロッシャ

11時ラゴア農園を出発する。
お世話になった農園主のジョアキン氏、ノイマン女史、またゲストハウスの方々ともここでお別れ。お土産に頂いた自家製ジャムはまた格別の美味しさであった。
感謝、感謝である。


[ ブラジルレポート#002 ]


次の訪問先であるサントアントニオドアンパロは人口2万人の田舎町。
ラゴア農園よりハイウェイで15分ぐらいの所にある。
土曜日にもかかわらずヘンヒケ氏およびサンコーヒーのスタッフが我々を迎えてくれた。

★ サントアントニオドアンパロの街並み


Santo Antonio Estates Coffee:Sancoffee-Mr.Henrique Cambraia

2002年、ヘンヒケ・カンブライア氏が地元の伝統ある農園をまとめ賛同者を募り高品質栽培、産地認証的ブランディング、サステイナブル、海外直接輸出を目指しサントアントニオエステートコーヒー(サントアントニオ地区の生産者団体)を設立、現在に至る。
現在グループは20農園、全体の作付面積は3000ha、平均75000袋の収穫。
それぞれの農園に精製工場があり、それらを生産者団体所属の輸出業者であるサンコーヒーが一貫して精選、品質管理、そして輸出という流れになっている。
この地域の特徴として小高い丘陵地、豊かな土壌と水資源、農園及び労働者の長い伝統、そして在来品種栽培に注力(この地域のブルボン種は有名)がある。

品質を一貫させるために精選工程は以下にて統一させている。

<精選行程>
【農場】フローター選別→パルピング→天日乾燥→機械乾燥→脱殻
*1…3~7日間コンクリート乾燥場にて水分値18%~25%まで。
*2…1~3日間乾燥機にて最大45度で10.5%まで。
*保管サイロ:木製サイロ~最終目標水分値まで(約30日)保管させる。
【工場】異物選別→スクリーン選別→比重選別→風力選別→電子選別

到着後サンコーヒー事務所にてカッピング。
サントアントニオエステートコーヒー全てのロットをカップし評価、またその後のブレンド等品質を管理するジョアンマルコス氏も含む他のスタッフが続々と集まる中でのカッピングに少々緊張する。

★ カッピング中。

ブラインドで7種類(ナチュラル精製4品種、パルプドナチュラル精製3品種)。
ナチュラルについては「寝かせ」期間が短く時期尚早とのこと。カップにばらつきが見られるのもあり突出したものはなかった。しかし味覚のポテンシャルは感じる。
また、パルプドナチュラルについてはどのロットも甘味、高品質なフレーバー、爽やかな酸が感じられ非常にいい印象。
特に個性的で強いフルーティーな甘さを感じたロットがひとつあり胸が躍る。
ブルボンアマレロ種のパルプドナチュラルであった。

その後、レストランにて昼食。
とにかくブラジルはどこで何を食べても実に美味い。特に肉料理には脱帽。
すがすがしい気候とゆっくりと流れる時間についつい仕事であることを忘れてしまう。
いかん、いかん…。

★ 元スタッフが経営しているレストラン。実に美味かった。


FWAZENDA BOM JARDIM:ボンジャルディン農園(標高1,100~1,200m)

午後はサントアントニオエステートコーヒーグループ農園のひとつである「ボンジャルディン農園」に向かう。

農園主のジョズエ氏は、サントアントニオエステートコーヒーの組合長。
多品種の種屋も経営している事から、栽培品種ごとの果実と枝葉の実物サンプルをなんと15種類我々の為に揃えて用意してくれていた。
これだけの品種が実際に実をつけている所を一辺に見られるという事はまず無いであろう。在来種とハイブリッド種では実の付き方がまったく違う。分かってはいたものの実際こうして見比べてみるとそれは明らかである。
実に勉強になった。ジョズエ氏及びスタッフには心から感謝である。

★ ずらりと並ぶ15品種のコーヒーの実。…圧巻

★ 農園主のジョズエ氏と。

また、実際に販売しているというコーヒーの種とその保管倉庫を見学。
どの品種も種の段階では価格に差はないことを聞き、ちょっとビックリ…。
その後の栽培時の手間と収穫量の大きな差により生豆での価格差が出るとのこと。
たしかに言われて見ればその通りですよねぇ…。

★ コーヒーの種。

この後4WDに分乗し農園内を見てまわる。
今まさに収穫期ということで園内の木にはびっしりと実が付いている。

★ コーヒーの実。

★ 農園内乾燥パティオ。

★ ボンジャルディン農園内を歩く。

その後は、この日の宿となる ヘンヒケ・カンブライア氏のゲストハウスへ。

夕食にはサンコーヒー関係者を交えたパーティーをゲストハウスにて開いて頂く。
南半球の皆既月食と満点の星空の下、とてつもなく美味しい食事とお酒を楽しみさらに親睦を深めるとともに夜遅くまで盛り上がる。

このヘンヒケ氏のゲストハウスも、これまた素晴らしかった。
100年以上の歴史をもつ建物を柱等土台はそのままに今年建て直したそう。一部建設中ではあったが、全てにおいてハイグレードな建物と家具が作り出すその圧倒的な空間にしばし時を忘れてしまう。

★ ゲストハウス全景。

★ ゲストハウス内。美しい空間力。

★ ヘンヒケ氏と。

8/17(日)

本日も快晴。朝、夜は冷え込むものの昼間は暖かい。
湿度が少なく、とにかく爽やかで過ごしやすい気候である。
サンパウロはどんよりとした曇り空であったが、農園が広がる地域に入ると収穫期のこの時期さすがに雨はおろか太陽が隠れる気配すらない。


FAZENDA PEDRA ROXA:ペドラホーシャ農園(標高1,100m~)

朝食を済ませた後、グループ農園のひとつであるペドラホーシャ農園へ向かう。
到着後、収穫機械を実際に動かしてもらいながらの収穫体験と人手による布を敷いてのストリッピング体験。
日曜日というのにスタッフが大型の収穫機をじっさいに動かしてくれるという。

★ 農園内。山肌にあるのだがこのエリアは機械が入る。

★ 大型の収穫機による収穫の様子。

★ 収穫機による収穫。
トラクター内での決死のレポート報告。

これまで「完熟・手摘み」などと簡単に表現してきたが、実際にこれを体験してみると大変な仕事であることが容易に分かる。実すべてが均一に熟している訳ではなく、また次期結実部を取ってしまうと来年の収穫に影響がでることから、ただやみくもに取ればいいというものではない。
…簡単ではない、体力、知力、集中力を要する相当なハードワークである。

★ この日も同行のジョズエ氏に手摘み収穫のお手本。

★ ペネイラによる異物選別。これが簡単そうで結構難しい。

★ 手摘み収穫体験とその解説。

手摘み収穫は品質に直接大きな影響があることから、サンコーヒーにおける人手収穫においては収穫レベルを高めるべく人材教育を欠かさないそう。

およそ2~3回に分けてのストリッピングを実施、完熟果実を中心に行う。
また次期結実部分は決して擦らない。3回目には全てのチェリーを収穫する。
1人が100本・150メートル/列に植えられたコーヒー樹からチェリーを収穫するためには2日かかる。
60リットル収穫で3レアルほど。一日300リットル収穫可能、そこから50kgの生豆が精製される。

その後パティオ、乾燥機、そして精製、精選行程を見学。

★ 全景。

★ パティオでのサンドライ。
コーヒー攪拌を体験レポート。

その後、農園内ゲストハウスにてサンコーヒーのプレゼンテーションに続き我々も自社のプレゼンをそれぞれ簡単に行う。ぞくぞくと近くの農園主達が集まり出し、気が付けばかなりの人数に…。皆さん日本のコーヒー屋には興味があるよう。
そこでは南蛮屋をアピールするとともに今後の展開を約束。持参した自社製品である「特上ブレンド ドリップバッグ」をプレゼント。
ブラジルではドリップバッグは珍しいらしく、非常に興味を示していた。

★ 南蛮屋のプレゼンを…ということで奮闘中。

その後皆さんと昼食。
家族たちも集まりかなりの人数のなか大いに盛り上がる。
これまた実に美味しい料理とお酒とフルーツに感動また感動。
ただし…、食後に出てくるそのデザートの尋常ではない甘さにはついつい閉口してしまう。
どこで食べてもブラジルのデザートはとてつもなく濃厚で甘い。恐怖すら覚えるその甘さに完全に甘いものがダメになってしまった…。


FAZEND PINHAL:ピニャル農園(標高1,100m~)

この日の最後にグループ農園のひとつであるピニャル農園に向かう。
1500haの敷地に約370haの作付け。
もともとメインは牛だったが2000年に現オーナーになりコーヒー栽培に集中し現在に至る。

ハイウェイにある看板から舗装されていない道を約30分。ひとつ山を越える辺りに農園主の住むゲストハウスと農園の精製工場、乾燥場がある。
ゲストハウスでは綺麗な奥さんと娘さんが私たちを迎えてくれた。
可愛い娘さんは小学生らしいが、一体学校へはどうやって通学しているのだろう。

★ 農園を見渡す。このエリアは2年目の若木、トパジオ種。

★ 農園主と。向こう側ももちろん同農園になる。…広い。

★ 途中山火事が…。でも全然焦っていない。よくある話だというが…。


[ ブラジルレポート#003 ]

8/18(月)

昨日に引き続きヘンヒケ氏のゲストハウスにて2泊目。
限りなくすがすがしい朝、美味しい朝食とコーヒーを頂いた後ヘンヒケ氏とはこの日でお別れとなる。とにかくお世話になった。
10月に開催される「SCAJ(日本スペシャルティー協会)2008」の展示会にBSCA(ブラジルスペシャルティー協会)の一員として来日予定とのこと。
日本での再開を約束。今から非常に楽しみである。

本日は移動日。

ヘンヒケ氏のゲストハウスからマイクロバスにて約3時間、ミナスジェライス州南部はカルモデミナス近郊の観光街サンロウレンソに到着。本日より市内のホテルにて2泊となる。

昼食後、天然湧水の飲み分けができる水の公園を散策。
サンロウレンソはミネラル分豊富な水が沸くことで非常に有名。このエリアが良質な土壌であることを裏付ける話である。
しかし広い公園内にいくつも点在する天然水の湧水を飲み比べてみるもそのあまりの鉄分豊富なテイストにしばし絶句…。

夜、明日訪問するカルモデミナスのカルモコーヒーのジャッケス氏、パウロ氏とホテルで待ち合わせ。対面後、市内レストランにて夕食会を開いて頂く。

…ちょうどこの頃からか、自分自身明らかに食に対する雲行きが怪しくなる。
あんなに美味いと思っていたブラジル料理に、世界最高の味付けと称賛していた肉料理にまったく箸が伸びない。気がつけば口の中には口内炎が…。
い、いかん、完全にバランスを崩している。
炊き立ての白いお米と熱い味噌汁、それに納豆と…コテコテの日本食を口一杯に頬張る姿を夢に見始めたのはそう、確かにサンロウレンソの夜からであった。


8/19(火)

朝食後9時ホテルを出発。
カルモデミナスまでバスで15分。カルモコーヒーズ事務所に向かう。

★ カルモデミナス中心部にある教会と街並み。


CARMOCOFFEES-Mr.Jacques/Mr.Paulo

1時間ほどカルモコーヒーズおよびコカリベ(カルモデミナス農協)のプレゼンテーションを受ける。

カルモコーヒーズは12の農園からなるカルモデミナス地区の生産者団体。2002年から品質向上に注力し、このエリアの独特な環境特性を活かして各種オークションに積極的に参加、ブラジルに関するオークションでは必ず数ロットが入賞する。
標高は平均で1,000~1,400mとブラジル国内ではかなり高い。この標高が生みだす昼夜の寒暖差がこのエリア独特の地域特性を作り出す。
10年前まではコマーシャルコーヒーを生産するエリアであったが、カップテストによりこのエリアの他にはない地域特性に気付きコカリベ(カルモデミナス地域の農協)からカルモコーヒーズを設立、品質管理、生産者の教育と向上など生産側のコンサルタント、また消費国へのコンサルタントも行う。

★ カルモコーヒーズ ジャッケス氏

その後、ブラインドでサンプル10種(ナチュラル精製5種、パルプドナチュラル精製5種)のカッピングを行う。

頭の中の情報をクリーンにしてカッピングに挑むも、数カップみただけで出された10カップのレベルの高さに気付く。間違いなく80点後半あるいはそれ以上を叩き出すであろうカップもいくつか見られる。後はそれぞれのカップの持つ個性をどう評価するかに絞られた。
…これはかなり凄い。思わずカッピングスプーンを持つ手が震える。

★ カルモコーヒーズ事務所にてカッピング。

★ …カッピング中。

★ 左からジャッケス氏、カッパーのホージー氏、私、
そしてルイス・パウロ氏。

中でもナチュラルで2カップ、パルプドナチュラル3カップはこの場で契約したいほどのハイクォリティー。この地域のナチュラルのクリーンな甘さ、パルプドナチュラルの強烈なフルーティーフレーバーに衝撃を受ける。

終了後カップの評価コメントをそれぞれ出し合うトークセッション。
その中でジャッケス氏よりパルプドナチュラルについて我々に意見を求められる。
香味には申し分無いものの生豆の経時変化に問題がある点を指摘すると、やはりその問題は生産者側も理解しているようで、なんと現在麻袋に代わる輸送時の入れ物を試作中とのこと。また、定温コンテナ、定温倉庫の使用も考えているとの回答であったが、反面コストというデメリットも出てきてしまう。
それでも、生産者側の熱意と情熱をリアルに感じることのできる非常に有意義な時間を過ごさせて頂いた。

その後市内レストランにて昼食、午後は農園をまわる。


FWAZENDA DO SERRAD:セラド農園(標高1,100~1,300m)

急勾配の山道を登る。
山肌には整然とコーヒーの木が植えられている。このエリアは高品質なブルボン種が非常に有名。しかし残念ながらブルボン種は生育が早い為収穫はほぼ終わっていた。
ブラジルにおけるコーヒー栽培のイメージは”広大な大地に地平線の向こうまで広がるコーヒー園…”のようなイメージが一般的だと思うが、このエリアは全く違う。
個人的には、静岡の牧の原台地に広がるお茶畑をさらに大きく、広く、ワイルドにした感じとでも言うべきか。
…この壮大なスケールに圧倒。

★ 山肌に整然と植えられているコーヒー。

★ カルモコーヒーズのお二人と。

★ ここでパルプドナチュラルの精製を…。
まずは選別。熟度の高いものが選ばれる。

★ パルパーで外皮と果肉を剥がしたあとトラックヘ。

★ 剥がされた外皮と果肉。

★ 熟度で分けられたもう一方はナチュラルにて精製される。

★ パーチメントを積んだトラックは高台にあるパティオへ向かう。

★ 到着。

★ 荷台からぬめりのついた状態のパーチメントを落としていく。

★ 攪拌。“細く、薄く”広げていく。

★ 綿密なロット管理。

★ 乾燥中。“細く、薄く”干された豆は均一に天日を浴びる。

★ 等高線上にコーヒーが植えられている様子。まるで日本の茶畑のよう。


FWAZENDA DO SERTAO:セルトン農園(標高1,200~1,400m)

とんでもない急勾配を登っていく。…それにしても高い。
高所恐怖症の私には若干足がすくむ。この急勾配な斜面で栽培されるエリアにはもちろん機械は入れない。全て収穫は手摘みとなる。

このセルトン農園は歴史も古く、カルモデミナスを代表する優良農園のひとつ。カップ・オブ・エクセレンスの上位入賞は常連。今回是非、訪問させて頂きたかった農園のひとつである。
しかし農園到着が時間的に遅かったため、今回は残念ながら精製の工程は見られず…。

農園主のジョゼ・イジードロ・ペレイラ氏は3代目。一族の写真や記念品などがゲストハウスには展示されており、100年を誇るこの農園の偉大なる歴史を感じた。
ここでも奥様のナザレ・ジアス・ペレイラさんから美味しいケーキやパン、ジュース、それととびっきりのコーヒーなど熱烈な歓迎を受けた。どれもこれもあたたかくて優しい美味しさ。心から感謝を思う。

★ 山頂近くのカットバックされたエリア。標高の高さが伝わると思う。

★ びっしりと付いたコーヒーの実。

★ 山頂部より農園を見渡す。

★ 農園主のジョゼ・イジードロ・ペレイラ氏。ジャッケス氏のお父さん。

★ 農園内精選工場。歴史を感じる建物。

★ パティオにて乾燥、細く薄く干す。ちなみにここは標高1,200m。
涼しく乾燥工程には最適な環境となる。

★ ジャッケス氏のお母さんと。美味しいコーヒーとケーキをありがとう。

★ カルモデミナスを見渡す。…広大、壮大、雄大、圧倒。

皆さんと別れた後はサンロウレンソのホテルに戻り、ジャッケス氏、パウロ氏と今宵も夕食に。市内のイタリアンレストランに入るも、すでに肉類は一切受け付けてくれない身体になってしまった私は野菜サラダをひたすらムサボル…。


[ ブラジルレポート#004 ]

8/20(水)

朝9時にホテルを出発。
午前中はカルモデミナス地区の農協であるCOCARIVE(コカリベ)を訪問する。

★ コカリベ。

★ 倉庫。

COCARIVE(コカリベ)はカルモデミナス地区の農協。各農園で精選されたコーヒーは最終的にコカリベにて輸出玉に仕上げられる。精選工場は2ヶ所有り、昨年完成したスペシャルティーコーヒー専用工場と一般物とで使い分けをしている。

農協社屋には品質管理室、プレゼン室、(教育啓蒙のための)焙煎ラボ等施設があり、非常に充実。また直営のアンテナショップもある。人的教育においてハード面での投資が重要、とソフト面と平行に進められている。

それにしても到着後に振る舞われたエスプレッソがとにかく美味かった。
ブラジル滞在中かなりの数のエスプレッソ(ブラジル国内ではエスプレッソかカフェジーニョと呼ばれる細挽きされた粉をネルで抽出する濃厚なコーヒーのどちらかが出てくる)を飲んだが、ここで頂いたエスプレッソのその香味は圧倒的。非常に奥行きのあるボディー感と爽やかに抜けていく酸はとてもストレートのブラジル豆のみを使ったものとは今考えても思えない…。
あらためてこのエリアの産地特性の素晴らしさを痛感する。

★ コーヒーサンプルをロースト中。若い彼は我々の訪問に少々緊張気味。

★ 品質管理室。

★ 直営のビーンズショップ。残念ながらこの日は定休日。

この後スペシャルティーコーヒー専用の精選工場を訪問。

★ 精選工場に運び込まれたコーヒー豆。

★ ロット管理のため、一袋ずつサンプルを摂取する。

★ ベルトコンベアーにて倉庫内に。

★ その後人力によって高く積み上げられる。
ブラジル人の圧倒的なパワーに絶句…。

★ 選別機。工場の設備は近代的で非常に美しい。

★ 山積みにされたコーヒー豆。もちろんロット管理は徹底していた。

工場を後にした我々は、サンロウレンソ市内に戻り昼食。お世話になったジャッケス氏、マルコ氏ともここでお別れとなる。
とにかく本当に彼らには色々なことを教えてもらった。
コーヒーについてはもちろん、生産者側の熱意、情熱などカルモデミナス地域のコーヒーの良さを真剣に伝えようとするその彼らのまっすぐな姿勢は、ストレートに我々の心に響く。
…心から感謝の気持ちでいっぱいである。
今後の展開を約束するとともに、10月日本での再開を誓い合う。

帰りはコースを変え、このエリア一体を含むマンチキエラ山脈越えのコースでサンパウロに向かう。約5時間のバス移動。

★ マンチキエラ山脈の山並。

★ 山脈を通るハイウェイ。

20時過ぎにサンパウロのホテルに到着、その後夕食に。
なんと、この日は悲願の和食をホテル内レストランにていただく。
白米のあまりの美味しさに思わず涙が…。
やっぱり日本人はお米だとつくづく…。


8/21(木)

ついにブラジル滞在最終日を迎える。

この日はサンパウロ市内を視察。
「スターバックス」ブラジル国内一号店のあるモルンビーショッピングセンターを廻った後、サンパウロでは注目の「オクタヴィオ・カフェ」を訪問。サンパウロ州前知事が自ら経営する農園のコーヒー豆を扱うショップを、ということでできたこのカフェは建物も非常に美しくメニューも実に多彩。また、ブラジル国内バリスタチャンピオンが淹れるエスプレッソはなかなかの香味。
「消費国」としてのブラジルをリアルに感じたカフェ訪問であった。

その後ホテルにもどり荷物の整頓、夕方6時にホテルを出発、空港へ向かう。

★ 空港前、滞在中行動を共にしたマイクロバス運転手さんと参加者全員で最後に記念撮影。彼のドライビングテクニックは本物、まさにプロフェッショナルであった。

空港で軽い食事をとり機内へ、定刻通り離陸。
ブラジルを後にする。

JL047便  22:55サンパウロ発  ー 8/22(金)07:00ニューヨーク着
        10:00ニューヨーク発 ー 8/23(土)12:55成田着

途中ニューヨークでのトランジットを含む約26時間のフライトを経て、日本に帰国。
…遠い。
…果てしなく遠い。

あらためて地球の裏側まで旅をしていたことを体感する。

100年前、強い志と希望を胸にブラジルへと船で渡った彼らの気持ちは、一体どれほどのパワーで満ち溢れていたのであろうか。とてつもなく強い人達であった事は容易に感じる。
彼らがいなければもちろん歴史は大きく変わっていたであろう。
今回の視察も、もしかしたら世界のコーヒー事情すら一体どうなっていたのか…。
全てに感謝である。

* * *


最後に…

今回ブラジル産地視察に行かせて頂いた中で自分自身一番の収穫といえば、今までは100%わかり得なかった生産者の情熱とコーヒーにかける気持ちを、実際にその場で話しをして、直接触れ、直接見ることにより彼らの強烈なパワーを直に感じることができたことだといえます。
特に私とほぼ同年代である「サンアントニオエステートコーヒー」のヘンヒケ氏、「カルモコーヒーズ」のジャッケス氏、マルコ氏達との出逢いは、今後自分自身が成長していく上で大きく影響していくことでしょう。偉大なまでの歴史ある頑固な農園主達をまとめ上げ、教育し、さらに向上させ、それらを武器に世界を相手にして戦うその彼らの強烈なパワーと情熱に、完全に圧倒されてしまう自分がそこには居ました。

こんなにも大きな経験をさせて頂いた私に課せられた今後の使命といえば、そんな生産者たちの強い想いを形にし、表現し、適切に皆様へとお伝えしていくことではないかと強く思います。

また、同行させていただいた日本各地の同じ志を持つコーヒーマン達と出逢えたことも、私にとって大切な宝物となりました。

長くて短かった8泊11日ブラジル産地視察の旅。
多くの方にご協力を頂き、今はとにかく感謝の気持ちでいっぱいです。
心から、心からありがとうございました。

Muito Obrigado!!

 
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