炭火焙煎珈琲工房 南蛮屋

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村松 靖己

コーヒー生産管理部の村松です。
コーヒー豆の焙煎、生豆及び焙煎豆の品質管理、その他コーヒー商品全般の商品管理を担当をしております。
南蛮屋がお届けするコーヒーが皆様の生活の一部となり、ホッと幸せを感じるその瞬間の傍らにそっと居てくれていたら、こんなにも嬉しく、こんなにも贅沢な瞬間はありません。誇りと責任をもちまして、これからも皆様に幸せを提供させて頂く事を約束致します。



2017年05月31日

インドネシア コーヒー豆 産地訪問 2016【2】

【ワハナ農園】北スマトラ州シディカラン地区
創業:2005年
ロケーション:北スマトラ州ダイリ県シディカラン
面積:460.125ha(うちコーヒー面積200ha)
品種:ラスーナ、S795、カツアイ、ヴィラサルチ、ロングベリー(アチェ)、アンドンサリ、P88他
精製工場:セミウォッシュ、フルウォッシュステーションの設備

インドネシア コーヒー豆 産地訪問「サリマクムール社」ワハナ農園

北スマトラ州シディカラン地区に広がる「サリマクムール社」直営農園。
トータル面積460.125ha(うちコーヒー栽培面積は200ha)という大農園は、輸出業者である「サリマクムール社」として長年抱えていた“品質の良し悪しは集荷業者次第”というインドネシア国内のコーヒー生産における従来の構造から打破すべくつくられた直営の農園である。輸出業者が栽培、収穫から精製、そして輸出するまで一貫生産する事によって、良質の原料の確保、更には細分化された品質管理の徹底が可能となる。
また新たな試みの為の実験的農場として、その地位は揺るぎないものとなっている。

*地域の気候
日中32〜3℃、夜間15℃程度。
降雨量は十分で10ヶ月間は安定した降雨がある。

「ワハナ農園」では、天候関係は専任が配置されている(担当者Andri氏)

今年は、リントン・ニフタ地区とともにシディカランもまた降雨不順。乾季の降雨不足からシーズンイン遅れ、品質低下の懸念が心配されるとのこと。
工場内も、この時点においてはフル稼働ではなく2割程度の稼働と言ったところか。


【 苗床 】

●栽培品種(試行品種含む※)
・USDA種:コーヒー・カカオ中央研究所 →エチオピア/スーダン系
・Jember種:ジャワオリジン
・アンドンサリ種:ジャワオリジン →ブルボン系
・S795種:インドで開発 大粒 →リベリカ×ケント(ティピカ系)
・ティピカ種:コロンビア 生産性が低い この地域に合わない
・ラスーナ種:リントンオリジン カップのパフォーマンスと耐病性をとってサリ社としては総合判断でもっとも優れているとして力が入っている →ティピカ×カチモール
・ロングベリー種:アチェオリジン →エチオピア/スーダン系
・トラジャ種:トラジャオリジン。トラジャオリジンの交配種。 →ティピカ系
・HDT種:Hybrid dari Timor ハイブリッド・チモール
・カツーラ:コスタリカ(以下3種はスターバックスからサンプル)
・カトゥアイ:コスタリカ コレクションとしての植樹
・P88:タケンゴンでAteng Superと呼ばれている

※ヴィラサルチ…コスタリカ
※TimTim(TimorTimur)…アチェオリジン
※ローカルでよく耳にするガルンガンは明確にスマトラティピカを指す言葉


●作業順序

① 砂地床にシーディング
種は8〜20年木から採種した完熟豆 水分値35〜40%。
パーチメントはよく水洗行いミューシレージを除去しフラット面を下にして、深さは1cm程度に植えこむ。生豆の方が発芽が早いが、ワハナでは保護を優先しパーチメントのまま発芽率50〜60日でパーチメントを抱いた芽が伸びる。
90日で双葉が大きく育ち、この時点でポットに移植。
*砂地床である理由
・土は細菌を多く含み、発芽時の弱い時に負けてしまう時がある。砂地の方がきれい。
・植え替えの時に土台が土だと抵抗が強く、根が切れてしまう。

② 3ヶ月後 双葉が出たら、ポットに移植
根の先端をカットする。根が折れた状態にならないよう少し大きくなったコーヒー樹の間にポッドを置く。

③ 7〜8ヶ月後 畑に移植
ここまでのプロセスにおいて“成り”を見ながらの間引き選別は肝要で、実例では、最初のシーディングが80,000粒 → 畑で本植えされたのは61,000本であった。大体目安で約70%程度。

コーヒーの苗床

品種ごとの区分けの中、しっかりとした管理体制において栽培されている。ワハナ農園独自の見解として、発芽の負担にならぬよう砂地に植えられているのが印象的であった。


 
【 農園 】

品種ごとに区分けされた農園のレイアウトは見事と言うしかない。広大な敷地の中、徹底された管理体制のもとコーヒーが生育していた。

日中の平均気温は32〜3℃。夜間は15℃程度に冷え込む。降雨量は十分で10ヶ月間は安定した降雨がある。
各生産区域ごとに定点観察の木を決めて厳密にデータをとっている。色別の旗でマーキング。
天候関係は専任が配置されている。(担当者Andri氏)

ここ数年の降雨量はムラがあるとのこと。この極端な降雨ムラも、生育遅延の原因と想定される。
乾季が1ヶ月程度長引き、今年は10月くらいから収穫開始。開花は一斉にあり良好。
シディカランもまた降雨不順。また乾季の降雨不足からシーズンイン遅れや品質低下が懸念されるとのこと。(2016/10/20)

農園内の水源については、雨季/乾季により、雨水、地下水を併用。また、併せて工場排水を専用タンクで不純物を沈殿させながら上澄みを再利用行う。
泥質沈殿物はそのすぐ裏の5つの池に貯められて、ショベルで移動、返されながら、醗酵させ、肥料として循環利用する。扱いを誤ると環境汚染につながる神経質な処理である。

また栽培における肥料については、工場(コーヒー、サツマイモ)で排出されるくずを集め、農園内の一角にて有機肥料を作っている。
牛を10頭飼育しており、その糞も利用する。園内の廃棄物を一旦一箇所に収穫し、液様のバクテリアをホースで散布しながらショベルで攪拌行うという人力による“旧来の方法”で行われている。

インドネシア コーヒー豆 産地訪問「サリマクムール社」ワハナ農園˙


コーヒー手摘み収穫中の女性

*手摘み収穫中の女性
雨の中、もくもくと仕事を続ける。
この収穫された実は、注目の「ロングベリー種」。


コーヒーのシェードツリー

*シェードツリー
農園開墾時専門の農業技師を呼び寄せ植えられた、セオリーに基づくシェードツリーのレイアウトは見事。
成長程度に合わせたシェードツリー(風避け、雨避け、日光避け)、また重要な開花期の雨よけとしても非常に効力がある。
テプロシア、ラムトロ、センゴンなどのマメ科植物は、コーヒーに必要な養分吸収の妨げにはならず非常に適しているとのこと。


 
【 精製工場 】

精製工場

左から工場長のフランミン氏、副社長のディアント氏、そしてこの旅で一番お世話になったマイケル氏。


≪精製ライン≫

1. 原料納入
農園内で収穫され、トラックで運ばれたコーヒーの実

原料納入原料納入
原料納入


2. 原料投入

原料投入


3. 粗選別

粗選別
粗選別
浮かせることで選別された未成熟豆。


4. パルピング
パルプは肥料として再利用している。

パルピング


5. スクリーニング


6. 発酵槽
醗酵槽投入前に比重選別
20槽 15,000L/1槽 パーチメント重量にして8〜10t
オーダーに対応する
→目安:セミウォッシュ 12〜24時間/フルウォッシュ 24〜36時間

20槽並ぶ水洗式の発酵槽

*20槽並ぶ水洗式の発酵槽。この日は残念ながら稼働していなかった。


7. ミューシレージ除去
ミューシレージ・リムーバー

ミューシレージ・リムーバー

*訪問時は、女性が隅々まで丁寧に清掃をしていた。


8. サンドライ
乾燥場(パティオ):72×216m

乾燥場(パティオ)乾燥場(パティオ)
乾燥場(パティオ)
*雨季での乾燥工程の為、ポリカーボネイト性の屋根がある。天候に左右されず天日乾燥が行えれるが、効率はやはり左右される。この日も激しい雨の一日であったが、効率よく乾燥工程が行われていた。

ハニープロセスのカトゥーラ種
*ロット、精製、エリア、品種、乾燥段階等見事に管理、整理され干されている。写真は、管理され干されていたハニープロセスのカトゥーラ種。


9. マシンドライ
ドライマシン:ドラム型×34機(内不良豆用小型機2台)
●大型:15,000L/1機(チェリー25t)×32機 →乾燥温度:35〜40℃(天日乾燥と同じ環境を創り出す)
●小型:5,000L/1機×2機 →乾燥温度:75℃(効率優先)

マシンドライ

*乾燥温度を上げれば効率は上がるが、品質は下がる。

*ボイラーからのスチームを利用した新しい方式。熱源はヤシ殻(環境面)、パーチメント滓。120℃の熱風を供給し、80℃で回収、加温して循環。

*基本的に乾燥工程とそれに連動するプロセスは、オーダー内容(精選方法)により対応、変化させている。

*非水洗式のマシンドライは昼間稼働、夜間は停止を繰り返す。この事でアロマを十分に引き出すとのこと。何度にもわたるカット&トライで設定したものという。これもベストを探るなかで「今後変化する可能性がある」。˙

*スマトラ式ではマシンドライを行わない。色が白っぽくなるなど表面の状態が非常に悪くなるからというのが彼らの見解。

*乾燥時間と乾燥温度の目安
・水洗式:1〜2日天日+7〜10日マシン 35℃
・非水洗式(ナチュラル):1〜2日天日+7〜10日マシン 45℃
・スマトラ式:2日天日+パーチ脱殻+2日天日
・パルプドナチュラル:3日テーブル+7日パティオ


10. ドライミル:脱穀機
●8機:インドネシア製10〜15t/h
●1機:PALINI & ALVES LTDA社
石取り、風力比重選別機付き しかし脱殻性能はMcKKINON社製に劣り 処理後の変色が速いため稼働はほとんどなし。
●2機:インド製 McKKINON社製
スコットランドの技術。古い農園などで見かけるブランドで業界では老舗ブランドで知られる。 水洗式、及び、非水洗式用。
豆にストレスを与えない。非水洗に対しては、チェリー脱殻が不十分なため、比重選別を行い、ドライチェリーを仕分けし再度脱殻行う。
比重選別は3種に分けられる。チェリー、グリーン、割れ豆(ナチュラルの場合、パルピングを経ないため未熟豆はここで省かれる)

*パーチメント、チェリーは風味を保つため本社より出荷指示があるまで除去しない。

ドライミル:脱穀機ドライミル:脱穀機


 
【サリマクムール社】本社精製工場:メダン市内
メダン市中心部にある、サリマクムール社の本社精製工場。各指定の生産エリアから集められた原料「アサラン」がここに集められ、最終工程を施し各国へ出荷となる。


≪生産フローチャート≫

1. 原料受け入れ

原料受け入れ原料受け入れ
原料受け入れ原料受け入れ

*各生産エリアから集められ、乾燥場にて干されていた原料「アサラン」。選別前であり、異物が多くみられる。


2. 原料品質チェック


3. 選別(紐など)
良質豆のみ→4へ

選別(紐など)


4. 石取り〜比重選別(ビューラー社:スイス)
重 中 軽
↓ ↓ ↓ (程度により3列のベルト)

石取り〜比重選別


5. ソーティングマシン(G1〜G3)
韓国ISORT社 原料の状態により調整。

ソーティングマシン(G1〜G3)


6. ハンドピック(G1)

ハンドピック(G1)

●ベルトコンベア式:24人×32列
1列の構造
20人 50kg/3min + 4人(2人...50kg 1stチェック/3min+2人....2ndチェック/3min)
作業員は一ヶ月のハンドピック実習を経てから配置される。
訪問時には、まだシーズン入口であることからベルトコンベアでの選別は稼働していなかった。

●従来の選別テーブルによる方式
上のベルトコンベアでは人力による笊(ざる)を使った比重選別がないので細かい塵の除去に不十分だという面もある。よってアサランの状態によって良質なものであれば効率面をとってベルトコンベア。品質にやや難があれば精度をとってとハンドピック自体にも二つの方法を使い分けている。

従来の選別テーブルによる方式

何分にもシーズン入口。スマトラ式で最重要なピッキング工程は、ご覧のようにまだ2割程度の稼働。


7. スクリーニング(オプション)


8. パッキング


9. サンプル抜き
20kgごとに抜き取り入念な方法で20kgの代表サンプルを準備する。



■カッピング

▼地域別
・アチェG1
・リントンG1
▼プロセス別
・ワハナ スマトラ式
・ワハナ フリーウォッシュド
・ワハナ ナチュラル
▼単一品種
・ロングベリー種 ウォッシュド
・ラスーナ種 ウォシュド
・アンドンサリ種
・P88 ウォッシュド
・ラスーナ種 ナチュラル

カッピング

工場内事務所棟にあるカッピングルームにて10種カッピング。
ディアント氏によれば、何分にもシーズン入り口。一週間前のクロップでカップが暴れているかもとの話だったが、見事なカップもあり非常に心揺さぶられるものとなった。

特に「ロングベリー」、「ラスーナ ナチュラル」、また新顔の「P88」についてはすぐに特徴のわかる非常に優れたカップの印象。

「ロングベリー」のシトリック、アールグレイに混ざり合うバタリー(濃厚なバターのような滑らかな風味と舌触り)な感覚はこの豆の持つ特別な個性、また「ラスーナ ナチュラル」のワイニー、巨峰など圧倒的な風味特性には感嘆。
中でも特に初めてカップした「P88」の風味は、まさに高地産中米系を思わせる強烈な個性。シトリックで非常にキラキラとした明るい酸、青りんご、微かにクリスプ、ミルクチョコレートなど甘い風味が見事なバランスの中で広がる完璧とも言える調和。

かつての「インドネシア産コーヒー」という今では非常識な常識を根本から覆すそれぞれの圧倒的な風味特性は、そのインドネシアの不利が揃う気候条件を情熱とアイデアで見事に吹き飛ばし育て上げた、驚きの個性と驚きのユニークさの調和である。

インドネシアの常識を覆す驚愕の香味は、この旅において最高の出逢いであった。


 
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